地域福祉型福祉サービスの推進
地域福祉型福祉サービスの実践実例紹介
 

内中原ホーム

NPO法人 あだんちゃ

松江市内中原町320-17
TEL: 0852-28-3200
FAX: 0852-28-5700

1.地域の概要

 
内中原ホーム

松江城を東に望む閑静な住宅街、松江市内中原町。この静かな住宅街の一角に「NPO法人あだんちゃ」が経営する「内中原ホーム」がある。そのたたずまいは地域の景色の中に溶け込み、福祉施設であることを感じさせない。

この内中原ホームは、認知症高齢者を対象とするデイサービスとグループホーム、そして児童クラブを一体的に運営する施設だ。 爽やかな秋空が広がる平日の午後、ホームを訪ね理事長の浜田孝志さんにお話を伺った。


2.開設に至った経緯

浜田さんがこのホームを開設するきっかけとなったのは、自身の母親の介護体験だったという。 「私の実母が認知症とならなかったら、このホームは出来ていませんでした。ショートステイなどを利用しつつ妻とともに自宅で介護をしていましたが、限界を感じ、特別養護老人ホームへの入所を申込み、2年7ヶ月たって漸く平成11年の秋に市内の施設へ入所させる順番がまわってきました。」

「その時に、市内の5ヶ所の老人ホームを見て回りました。いずれも郊外にある施設で、市街地にある自宅から気軽に行ける距離ではありません。また、施設職員の方は、介護業務に追われ、走り回っている。おむつ交換なども流れ作業のよう。これでは安心できても満足は出来ないと感じました。出来るなら自宅の近くのグループホームに入所させたいと思いました。」

「もうひとつの大きなきっかけは、「呆け老人を抱える家族の会(現 認知症の人と家族の会)」を通して認知症という病気を学んだことでした。ここでの様々な活動や全国宅老所・グループホーム研究フォーラムなどで学んだり、全国の様々な宅老所やグループホームなどを見るうちに、単なるグループホームではなく、高齢者のデイサービスや地域の子供たちも集えて高齢者と交流できるような機能を併せ持つ施設をつくりたいと考えるようになりました。」

「そうしたときに平成14年に「グループホームを作る会」に誘われました。この会は施設のケアワーカーや看護師などが中心になって出来た会で、この会をもとに平成16年1月にNPO法人を設立、今年の2月にこのホームをオープンさせました。」


3.開設までの課題(苦労話)

ご自身の母親を介護するのに理想的な施設をつくろうとした浜田さん。続いて開設までのお話を伺った。

「当初は、市街地の空家を借り、改装してグループホームを作ろうと思いました。でも、改装にかなりのコストがかかります。また、所有者の意向によって改装自体に制限もかけられてしまう。うまくいきませんでした。」

「そうしているうちに、自宅の近くに売り地が出ました。土地の取得費と建築費でかなりのコストがかかるのがネックでしたが、思い切ってここに新築で施設を建築することにしました。」

「開設にあたってのイニシャルコストや開設当初のランニングコストは、私の退職金や、理事の出資金を充てたり、多くの知り合いに事情を話して無利子でお金を借り、賄いました。また、白潟の天神市などに出店させてもらい、資金を集めました。多くの方の理解があってこそ、このホームを建築することが出来ました。」

ホームを開設するのは松江の中でも由緒ある住宅街。地域住民からの反対等はなかったのだろうか。

「開設にあたっては、自治会の加入者全員の家を一軒一軒まわって説明し、理解を求めました。ここは古くからの住宅街なので高齢者世帯も多く、スムーズに受け入れてもらうことができました。」


4.施設の概要

 
開放的なつくりが特徴の施設

こうしてオープンした内中原ホーム。木造2階建立てで、食堂には明るい光が存分に差込み、自然で落ち着いた空間になっている。1階がグループホームとデイサービス、2階が児童クラブのスペースだが、1階と2階には大きな吹き抜けがあり、双方の様子が自然と伝わる。

認知症高齢者グループホームを多数手がけている建築家のアドバイスももらいながら、設計・建築したという。

「1Fと2Fとは基本的に独立しています。子どもたちには子どもたちの時間の過ごし方やペースが、高齢者には高齢者のそれがあるからです。いつも一緒では双方が疲れてしまう。基本的には別々、でも一緒に話しをしたり、何かしたいときには何時でも出来る距離や空間になっていると思います。」

「グループホーム・デイサービスと併設なので、看護師が必ずいます。これは大切な子どもを預ける親からすると、とても大きな安心につながるようです。高齢者と児童の複合施設の大きなメリットだと思います。」


5.利用者の様子

この内中原ホームには、一日の時間の過ごし方に自宅との違いは殆ど無い。利用者は、基本的に思い思いの時間を過ごす。テレビを見たり、職員とのお喋りを楽しんだり・・・。ゆったりと落ち着いた様子だ。

「一日のプログラムは基本的にありません。強いて言えば、出来るだけ外に出かけるようにしていることぐらいでしょうか・・・。利用者が外に出かけることによって、閉鎖的になりがちな福祉施設に外の空気を持ち込んでもらえていると思います」

これは2Fの子どもたちも同じのようだ。子どもたちが学校から帰ってくるにはすこし時間帯が早かったため、一人だけ。ここでの様子を聞くと「楽しいよ!」と元気な返事が返ってきた。ここの指導員さんは市内の他の児童クラブでの勤務経験がある方だ。

 
児童クラブも開設している

「子どもたちの遊びのブームはすぐに移り変わります。釣りだったり、剣玉だったり。ここは小規模なので、一人ひとりに目が行き届きますし、そういう子どもの変化にもすばやい対応が出来ると思います。」

実はこの児童クラブは、単なる「学童保育・放課後児童クラブ」ではない。

「いわゆる不登校の子どもたちの居場所としてのサービスも行っています。今のところ利用者はありませんが、そういうニーズにも対応しています。」


6.利用者・職員の変化

開設して約半年、浜田さんの目から見て、内中原ホームでの利用者や職員の様子はどう評価されているのだろうか。

「利用者の表情が皆さん穏やかで、このグループホームを作って良かったと心から思います。小規模ということで、職員があまり仕事を抱えすぎず優しい気持ちで利用者一人ひとりと向き合い、密接な関係が出来ているからこそ、利用者がとても落ち着いて日々を過ごせるのだと実感しています。勿論、それは職員の献身的な働きがあればこそです。」

また、多くのボランティアにも支えられていると浜田さんは言う。

「昼食づくりを手伝って下さる5人のボランティアさんがいらっしゃいます。皆さんの働きによって職員もケアに集中することができますし、これには本当に助けられています。また市社協ボランティアセンターの紹介により、歌や楽器演奏なども多くのボランティアさんにも来ていただいています。懐メロなどを演奏してもらうと利用者は本当に喜ばれます。その豊かな表情を見ていると、私まで嬉しくなります。」


7.地域との関係

開設後の地域との関係はどうなのだろうか。

「地域との密接な関係がこのホームの大きな特徴だと思います。民家風のつくりにしたのは、ホームがこの地域に馴染むようにという思いもあったからです。また、日中に利用者が出来るだけ外に出かけるのも、外の空気を取り込むだけでなく、地域との交流を図るという意図があります。」

「近所の方が、ご自宅で作られた花や野菜を持ってきてくださったり、お手伝いに来てくださったりすることもあります。地域に風を起こすというか、地域に福祉の輪を広げるような役割をこのホームが担えるようになれば、と思っています。」


8.現在の課題

この内中原ホームのグループホーム入所定員は6床、デイサービスは12名。小規模がゆえに行き届いたケアが出来るが、その分経営基盤は厳しい。

「6床のグループホームで開設することは、随分周りから反対されました。それでは経営できないよと。でも、儲けるためにこのホームを始めた訳ではありませんから、厳しくてもなんとかやっていける状態です。」

「ただ、経営母体がNPO法人だけに、社会福祉法人に認められているような税制優遇措置がありません。以前は、児童福祉法と老人福祉法に関する事業については減免ということもあったようですが、県の予算も減る中でその制度もなくなってしまいました。経営母体が違っても提供しているサービスは同じなのですから、同様の措置が適用されればと思います。」


9.今後の展望

「島根県にあるグループホームの数は、全国平均に比べると少ないようです。そういった状況から、まず、グループホームの整備が最優先だと思います。しかも、利用者に満足していただけるようなサービスが提供できる、そんなホームを増やすことが大事です。」

そのために、内中原ホームが見本となること、それが浜田さんの展望と言えそうだ。

 

前のページ ページトップ